技術士だより「学内技術士の声」 柴 錦春 氏

大学での技術教育

 平成12年技術法の改定に伴い、技術士二次試験の受験要件が変わりました。日本技術教育認定機構(JABEE)が認定した教育課程の修了者以外は全て一次試験に合格することが求められています。この変化に伴って、大学での技術士に関する関心は少しずつ高くなってきたが、技術士は職業独占的な資格ではないので、医師、弁護士、建築士等の資格より、まだ認知度は低いのが現状です。また、技術士の資格は大学教員の教育、研究活動に直接関係していないため、教員が積極的にこの資格を取得しようという雰囲気になっていません。私が所属している佐賀大学都市工学科において、教員22名で技術士1名、イギリスのCPEng(Chartered Professional Engineer)1名しかいません。対照的に1級建築士は3名います。
 しかし、土木分野で公共事業の入札、受注の場合、会社の技術力を評価する指標の一つは技術士の人数なので、社会的に技術士を高く評価しています。また、会社が新卒者を採用する時、将来、技術士になれる人材を望んでいます。卒業・修了生の就職の面接では、会社側より、技術士一次試験に合格しているか、という質問はたびたびあり、このような情報は大学にフィードバックされています。さらに国立大学の独立法人化、 JABEE制度の導入によって、大学教育プログラムの認証、大学の評価方法も改革されました。この教育改革の流れの中、多くの大学の土木系学科はJABEEの認定を目標にしています。認定を受けないにしても、技術士一次試験合格率を高めることを一つの目標として挙げています。以下、佐賀大学都市工学科の取り組みを紹介します。
 佐賀大学都市工学科は九州地域の大学の中で、建設分野において最大の90名の学部生定員数を持っています。建設業の市場の状況を勘案して、将来的に土木分野のみで90名の学生の就職先を保障することは困難と判断し、平成18年度から都市工学科に2つのコースを設けました。一つは「都市環境基盤コース」、もう一つは「建築・都市デザインコース」です。この動きに伴って、最近数年間、建築・都市デザインコース教員の充実が図られました。またJABEEの認定は、教育目標を設定して、それに対応したカリキュラムの構築と実施と言うシステムの評価です。ある意味で柔軟的、イノベーション的な教育システムの構築に拘束をかけている側面があり、修了生の能力を保証するものではありません。以上のことから、現在、佐賀大学都市工学科はJABEE認定プログラムの認定申請を行っていません。かわりに技術士一次試験の合格率を高める対策を取っています。

(1) 技術士の認知度を高める取り組み:学科長、就職担当教員をはじめ、専門科目を教える教員全員、学生に技術士制度とその資格の有用性を説明し、以下の2点を学生の間に浸透させています。
 (a) 技術士は国家資格で、一級建築士と違い国際的に有効な資格です。
 (b) 技術士一次試験に合格したら、就職に有利になります。

(2) 教育プログラム上の取り組み:多くの研究室で、卒業生のゼミにおいて、過去の技術士一次試験問題を勉強しています。また大学院博士前期課程の学生の技術士一次試験受験を支援するために、「都市工学特別演習」と題する科目を平成20年度から開設しました。この科目は現場事例を用いて、都市計画、地盤工学、上下水道学、構造工学に関する高等な専門知識の応用についてシステマチックに演習します。都市計画、地盤、水および構造4分野の教員が担当しています。

 本年度は、私の研究室の3月修了予定の2名を含め9名の博士前期課程学生が技術士一次試験に合格しました。土木系の分野の研究室に所属する院生の25%程度の合格率であり、更なる工夫の必要性を痛感しています。

 最後に、技術教育における英語能力の教育について、私見を述べます。日本の土木技術は世界一流なものと言えます。一方、現在、日本の土木市場は縮小の傾向にありますが、アジアの途上国の社会基盤整備が急ピッチで進んでいます。そして、日本の建設企業は海外で展開すべきと考えますが、実はそれほど大規模なものにはなっていません。いくつかの原因がありますが、ひとつは技術者の英語能力が十分ではないことが考えられます。いろいろな面での国際化の進展によって、実質的な国際語である英語の重要性が増しています。このような背景において数年前、大学入試センター試験に英語リスニングが加えられました。私は大学の技術教育に英語能力の教育を強化する必要性があると思っています。具体的に専門科目の講義に、日本語と英語用語の併記、説明、大学院専門科目の英語での講義を考えています。私が勤務している佐賀大学都市工学科でこのような考えを実現するために努力するつもりです。