縫ノ池支援

縫ノ池

 平成14年11月17日、佐賀県杵島郡白石町川津の縫ノ池で縫ノ池湧水会主催による茶会が開催されました。
 (平成14年11月17日 当NPO法人技術交流フォ-ラムが後援)

 多くの皆様が参加され、紅葉の季節の中、40数年ぶりに戻ってきた安全でおいしい湧水を囲み自然の恵みに感謝しながらお茶を味わいました。
 今回の茶会は白石町、淡水会佐賀支部有明青年部、裏千家インターナショナルアソシエーションの協力と後援をいただきました。
 当会は住民と行政の連携・交流サポ-トとして40数年ぶりに湧水が復活した縫ノ池の活用を応援しております。



以下に、中心となって活躍している当会員の大串正さんの報文を掲載します。


復活した湧水池 -住民と行政の連携・交流をサポート- Revival of a died- up spring

技術士(建設部門) ○ 大串 正(NPO法人技術交流フォーラム)
キーワード:地域の連携と交流

1.はじめに
 白石平野は、昭和30年代頃から,農業用水・水道水の100%近くを地下水に依存した。そのため,平野の西端にあった北部九州有数の湧水群はすべて枯渇してしまった。
 昨年4月,同平野の白石町は,水道水に関し地下水の利用を止め,表流水の取水に変更したところ,40年ぶりに湧水群のひとつであった「縫ノ池」に湧き水が出始めた。地元では湧水の復活を機に,住民の自然環境・生活環境への関心が高まり,縫ノ池の原風景を取り戻そうと保存会「縫ノ池湧水会」が結成された。NPO法人技術交流フォーラム(以下,技術交流フォーラムという)は,賛助会員として支援することになった。
 技術交流フォーラムは,「技術士」を核とし,その高度な技術及び応用能力をもって,ひとづくり,地域づくり,くにづくり,災害支援,環境問題などの活動を通じ科学技術の発展とともに,公益の増進と豊かな社会をつくるために寄与することを目的として,平成13年10月に任意団体の「佐賀県技術士会」を改組し,特定非営利活動法人となった。
 以下,技術交流フォーラムの「住民と行政の連携,交流をサポートする応援団」としての取組みを紹介する。

                 白石平野案内図        湧き水が戻った縫ノ池


2.湧水の枯渇,そして復活へ
 白石平野西端の湧水群は,昭和30年代頃まで,灌漑用水,生活用水として利用されるとともに,地域住民の憩いの場,交流の場でもあった。
 白石平野地先の有明海湾奥部は,江戸時代から地元藩主による干拓が盛んに行なわれ,戦後は国営事業として取り組まれ陸地面積を拡大してきた。昭和30年代前半には,それまで経験したことのない干ばつが相つぎ,農業用水を確保するための方策として深井戸が掘られ,水道水も深井戸からの取水に依存した。白石平野の深井戸の数は150箇所以上に及ぶ。
 その後,半世紀にわたる地下水の取水によって地盤沈下が進行し,沈下量は,同平野で最大2mまで達した。人家は傾き,杭支持された構造物は抜け上がり,道路は波打った。
 そして,平野の西端にあった湧水群もすべてが枯渇し,その後の土地改変も加わり姿を消していった。
 昨年4月,白石町は水道水の利用を地下水から,佐賀西部広域水道企業団(佐賀導水事業)の表流水に切り替えた。その直後,40年ぶりに湧水群のひとつであった「縫ノ池」に湧き水がよみがえった。また,表流水への転換によって地下水の年間取水量は半減し,今年,佐賀県が実施した沈下観測によって,同平野の地盤沈下が沈静化傾向にあることが,地元紙によって報じられた。

3.技術交流フォーラムの取組み
 湧水が出始めた直後から,地元住民の一部に保存,整備へ向けた動きがあり,行政,関係機関への陳情等も行なわれたが,進展は見られず1年を経過した。
 今年6月,技術交流フォーラムの勉強会で,地元会員から「縫ノ池」の報告があった。さっそく現地を訪れ,地元代表者への聞き取りをしたところ,区長会を中心に「生活環境の改善」と「地域の活性化」に向けた関心が高まっていることを実感した。
 このことは,当フォーラムが目指す地域づくり,自然環境の復元,循環型社会の再生など,公益の増進と豊かな社会づくりに貢献するという趣旨に合致しており,積極的に支援していくこととした。
 以下,主な取組み・支援内容を列記するとともに,地元の活動などを写真で紹介する。

【今までの取組み】
現地見学会(地元住民・技術交流フォーラム・行政・報道機関等参加)
行政,関係機関等への協力要請及び広報活動(第3者の立場で)
湧水の成分検査の技術的指導
地元主導型保存会設立支援(平成14年7月21日:縫ノ池湧水会発足)
湧水会から技術交流フォーラムへ賛助会員として参加の要請
第1回役員会への参加(今後の地元主導型組織の確立へ向けての支援)
縫ノ池の清掃活動(8月11日地域住民約70人及び技術交流フォーラム会員参加)
第2回九州「川」のワークショップ参加への支援

【今後の取組み】予定
縫ノ池の歴史調査・研究(技術支援,共同研究)
地形,地質調査〔縫ノ池の水理地質構造の解明〕(技術支援,共同研究)
行政,関係機関等への協力要請及び広報活動(第3者の立場で継続する)
縫ノ池へ流入する集落排水路の付替え検討(技術支援)

湧水地点
湧水地点 水量毎分140リットル
縫ノ池にある神社の夏祭り
水質検査結果の説明会
水汲みに訪れた老夫婦
清掃活動



4.おわりに
 白石平野の約7割は,干拓によって陸化したところである。戦後の高度成長期には灌漑用水・水道用水を確保するために,多くの深井戸が掘られ,一時期は規制のないまま揚水が行なわれてきた。
 その結果,我々の生活を豊かにする一方で,無秩序な開発のつけが湧水群の枯渇を生じ,地盤沈下によるさまざまな障害をもたらした。
 佐賀導水事業による水道水の転換によって,地下水の年間揚水量は半減した。数年後に嘉瀬川ダムが完成し,灌漑用水の供給も始まれば,地盤沈下がストップする。地元の期待は大きい。
 「縫ノ池湧水会」は次世代へ引き継ぐ遺産として,地域のシンボルとして,池の再生に熱く燃えている。池の湧水量が増せば原風景が戻ってくる。さらに,周辺地域を含めた憩いの場・交流の場の形成へと,地元住民の夢がふくらむ。
 長崎オランダ商館のドイツ人のケンペルによると, 200年前の江戸時代には,循環型社会がうまく機能していたそうである。21世紀はまさに循環型社会の構築が必要不可欠となる。
 技術交流フォーラムは,地域に密着した技術集団として,まちづくり,ひとづくり,環境問題などに中立・公平の立場で取組み,21世紀の豊かな社会づくりに貢献していきたいと考えている。

-以上-